Area4 - Stage1 ~ いつか、この月明かりの空のように ~
2002年9月24日 江戸川シーバス
人はあることを「知っている」と言い、また別のことを「信じている」という。
しかし、この二つの認識は、それほどはっきり区別できるものなのだろうか。
人類が月へ行ったことは知っているのか、信じているのか。
~ 青山圭秀 『理性のゆらぎ』より ~
月がいつもよりも輝いていた。
だれもが太陽であり、月であり、お互いに影響し合って生きている。
人は支え合い、助け合い、そして生きていく。
この2週間、僕はそのことを痛切に学ぶ機会が多かった。
そしてせっかく作り上げた信頼と尊敬の心は、たった一つの嘘であっという間に崩壊していく。
波打ち際に作る砂のお城のように、それは一瞬で崩れ去ってしまう。
そして、僕はそのお城を守る為に戦うことを決めたんだ。
東京の空には珍しいほどの突き抜けるような快晴の夜。
僕は正反対の晴れぬ気持ちを引きずって、そして仲間達と立ち込む。
今回も相変わらずタックルのテストが山積み。
最終段階に入った風神号83L。
パワーを持ちながらも超繊細なティップでフッコクラスのバイトを全て乗せてしまう。
そんなコンセプトでできあがったのがこれ。
鬼の先調子、自動アワセ機能搭載ってな感じか。週間シーバスで発表してくれぇ。

一応、先に書いておきますが、本来は港湾部用でウェーディングして使うもんではありませんし、ミラクルワークスのどでかいプラグ連中を投げるもんでもありません。
ポイントは三番瀬を育んだ江戸川。
春から徹底的に開拓を進めてきた。
旧江戸川で学んだ流れの概念、荒川で知った見極めの真実。
知れば知るほど、この川のすごさに僕は鳥肌が立った。
本気で挑んだら、おそらく東京湾でも最強の川ではないだろうか。
肥沃な川に、肥沃な干潟。三番瀬を控えたこの川に相当な数の超弩級がいることは十分に想像できた。
そして、その中から2つばかりのポイントを僕は選んだ。
春のど干潮時、エイにびびりつつも一緒に河原を歩き回った金さんやふ~じと立ち込んでいく。
立ち込む水深は膝ぐらいでいい。
ウェーディングするアングラーが本当に増えた荒川なんかだと、腰の上目一杯立ち込んでいる人がいるけど、あれは違う。
目一杯立ち込んでいいのは橋の下ぐらい。
あとは、川に入りすぎ。自らチャンスをつぶしているように見えて仕方がない。
フッコだけ釣りたいならそれでもいい。
大きいサイズが釣りたかったら必要以上に入らないこと。
腰ぐらいまで立ち込む深さを超弩級シーバスは回遊すると思ってていい。
だから立ち込むのは膝の上ぐらいで十分なんだ。
そして、そこに大きなルアーを投げ込み続けること。
後は一日そこで粘ってバイトが出ないことに耐えられるかどうかなんだ。
時合は下げ5分。
最初のヒットはうろこ雲に月明かりが隠れた瞬間だった。
10分ほどして、50mほど上流側にいたふ~じが大騒ぎしている。
ビリケン12.5のジャーキングにど派手に出た60センチちょい。

秋一発目だそうで彼はなんだかゴキゲンでした
実はこんな風に写真を撮っている間にガンガン魚が目の前を通り過ぎているんだと思う。
川も根や地形の釣りをすれば、1投で答えの出せるつりだけれども、それ以外の場所はいつも魚がいるわけではない。
十数匹、それぐらいの単位で魚が回っている。その1匹を掛けたにすぎない。
だからって、仲間が掛けているのに目の色変えて自分もその1本を掛けにいく、そんな釣りは好きじゃない。
いいポイントを見つけてそこにきちんといれば、何度も何度もシーバスの回遊がある。
その時、その何回かに自分のルアーに出ればいいじゃないか。
そんな感じで挑む。
10分もしないうちに、僕のアロウズレアにヒット。
Uターン直後に一瞬潜ったところにガツンと来た。
流れに乗って下流に走っていく。
さすがにロッドがパワー不足。
きつい。やっぱり風神号86を持ってくるんだったと後悔しつつファイト。
2分ほどのファイトの末、ランディングしたのはやっぱり60センチちょい。

ま、9月の初期としては上出来なスタートだ、と。
リリースして、次を狙う。
まだ9月なんでこの50センチ60センチが多すぎる。
こいつらがいなくなってくれないと正直、超弩級を獲ることは難しいかもしれない。
僕たちが投げられるルアーは18センチが限度だろう。
そのサイズでは、大型だけに食わすことはできない。
12センチなんかじゃ、なおさらだ。
彼らが産卵に旅立つのを待つ以外にないのだろうか。
いくつかの差別化は頭の中にあるけれども。
そして、未だにお茶碗すら持てない僕の壊れた右手首。
今年はそんな大型を選んで釣ることができる、お得意のハンマー・メケメケのジャーキングを封印せざるを得なかった。
この釣りをすると5分もしないうちに右肩と右手首が悲鳴を上げる。
だから、ただ巻きの釣りをせざるを得ない。
そんなわけで、今シーズンはただ巻き強化シーズンとした。
ただ巻きでどこまでやれるか。
そこを徹底的に探求していこう。
10分ほどして、流れのない膝下ぐらいの水深しかないところを引き波出して泳いでいるレアが爆発。

レアもかなりファットなボディだと思うんだけど・・・ 55センチぐらいかな。
その為にリストアップしたルアー達。
アロウズレアを筆頭に、グースとか悟空とか、後はもう名前忘れちゃったんだけどありったけ買い込んできた。
それを一つ一つ泳がせていく。
明かり付けると、光の変化に超うるさい金さんが怒るので、月明かりと泳ぐ感触だけで判断していく。
また群れが回遊しているらしい。
下流で金さんが豪快に水しぶきを上げてファイトしている。
上流ではふ~じが、
「うひょうひょひょひょ」
なんて相変わらずな下品な笑い声を上げたり、
「%#◎&!」
とか意味不明な雄叫びをあげたりしている。
それもそのはず。
12.5センチのビリケンぐらいになると、60センチクラスは少し躊躇する。
ジャーキングには反応しても、結局目の前でバイトが出ることが多いんだ。
目の前の水柱はビックリするよな。
そんな中で悟空とグースに目がいった。
特にあの小沼氏が作ったという悟空。これの動きは素晴らしい。
エスフォーで持っている僕のいくつかの引き出しを更に延ばしてくれそうな感じがした。
これは釣れるでしょ。なんて思ってたら気が付いた。
6番フック3本ってどういうこと?
よく見ればグースもそうだし、いったいこれは何を釣るルアーなんだろうか、と。
僕は昨年、6番フック3本のワンテンで80UP間違いなしを2本もバラしている。
そりゃ、ボートや干潟なら取れるかもしれないけど・・・。
できれば。せめて4番フックでセッティング出して欲しかった。
とりあえず投げてみる。
1投目はダウンクロスすぎてU字が上手く書けなかった。水を掴みすぎずも掴みながらのバランスでU字を描く。
2投目はアッパークロスにキャストする。
流れに乗せて、U字を自分の真正面で描いた瞬間に水面が爆発した。
食った!
ジョワーッとステラからドラグを出して走っていく。
初めてのルアーでヒットさせるとやっぱり気持ちがいい。
サイズはたいしたことないので、ロッドの調子やらラインの感じを見ながらファイトしてランディング。

65センチぐらい?なかなかやります悟空。
潮は相変わらずそよそよと吹く北風に押されていい感じで下げている。
月明かりが静かな水面を静かに照らしている。
下流で金さんが相変わらず豪快な水音ばかり立てているので見に行く。

手首の痛い僕にはとても真似できない6ftのショートロッド
話を聞くと、そこら中でボイルしてるってんで金さんの下流に入ってみる。
さっき気持ちいいほどいいタイミングでヒットした悟空をまたキャストする。
目を凝らして流れを見る。あそこでよれて、ここで加速して・・・。
僕の中での答えを出す。そこに対して自然界がどんな回答を用意してくれているか。
5投目だった。
その一点を目がけてダウンにキャストして着水直後からドリフトさせて誘っていたら、暗い水面に真っ白な水柱が立ち上がる。
自動アワセ機能搭載のティップが入ってから、シャープにアワセを入れる。
来た!
グアッボゥッ!!
音と体感で80センチ級を直感。
けたたましいドラグ音をかき鳴らしながら、数秒で15mほど下流へ走っていく。
と思ったらゴクゴクと感触が来てフックアウト。
おまいがぁっ!やっちまった!!!
見ると、案の定フロントフックが折れて、後ろの2本はびろーんと伸びきっていた。
思わず月を仰ぐ。すでに超弩級サイズは川に入っていた。目の前にいたんだ。
そう思うと、自分の気の緩みを後悔した。川の80UPで6番フックはきつい。
昨年からさんざん経験してきたのに。
半分、発狂気味に騒ぎまくる様子を見に、ふ~じが降りてきた。
魚かなり回ってるよ。
そんな話をして、ふ~じは下流側に入る。
僕は同じ位置でキャスト開始。
しかし、20分ほど3人とも反応が無くなった。
そのうち来るだろうとふ~じと話をしながらキャストを続ける。
今日の展開から今のバラシまでを考える。
間違いなくすでに80UPが来ている。
そう思うとハンマーにしたくなるが、今年はそのメソッドが使えない。持ってきてもいないのだ。
ただ巻きでも釣れるドカポップ14センチをフルキャストする。さすがにルアーが重い。
キャスト直後に肩がピリピリとしびれ出す。でもここが譲れない線だ。
ミラクルワークスの代表である増田氏とは、99年の秋、クロスロードで知り合った。
そこでした増田氏との話。Area3に書いた、浮力で60センチ以下を排除するあの概念。
その浮力が流れの中でもたらす驚異的な効果。
僕はどうしても埋められなかったこの釣りにおけるパズルの数片を埋めてもらった。
その瞬間に、僕の中で自分の釣りがとんでもないレベルまで高まった興奮を今でも覚えている。
人と人は知り合い、そして支え合い、助けあう。
それが釣り人同士ならクロスロードなんだ。
もうかれこれ3時間は水に浸かっているだろうか。
そんなことを思い出しながら、感性が完全に水の中に入り始めていたのかもしれない。
また感じることができた。
まだ9月だってのに、感じたんだ。
静かな水面が更に静かに、息を潜めるようなあの悲しいほどの静けさ。
付近のイナっ子などの小魚が緊張し、躍動する生命感を消す一瞬。
言葉にできない一瞬の違和感。
それは、まさにでかいスズキ特有の気配だった。
ドカポップをアッパークロスに入れて、着水直後にスプラッシュを一発。
そこから引き波を出しながら下流側へ泳がせる。
泳ぎながらもほとんどラインテンションフリーで泳いできたドカポップが、今度はU字を書く為に一際大きな大きな引き波を立て始めた瞬間だった。
グバァッ!!
電気のように緊張感が駆け抜ける
上流側から襲いかかるのが見えたのでアワセは入れなかった。
そのまま風神号83がバッドからねじ曲がる。
すでにパワーの余力を完全に失ってしまっている。
魚はエラ洗いの気配。
近すぎる!
反射的に後ろに飛ぶように更にアワセを叩き込む。
シャロー側へロッドを倒し、浅い側へ頭を向ける。
体を半分出しながら魚が水面からエラ洗い。
鏡のようなシャローに真っ白な水しぶきがほとばしる。
魚はそのまま走り出す。
ヒステリックなドラグ音が10秒、20秒。
シャローの上には杭や捨て石が多い。
流れの中で、半分飛びながら、泳ぎながらで下流へ僕も追いかける。
上から金さんから
「まさっち、でけぇぞ!」
と大きな声が飛ぶ。
「わかってるさ。」
そうつぶやきながら、僕は走るスズキを追いかけて下流へと下がる。
ロッドにパワーがないことと、僕の右手がぶっ壊れていること。
この2つのおかげでどうしたってファイトが難しい。
下流にいたふ~じの前まで来てしまった。
タバコをくゆらせながら、「うひょひょひょひょっ」て笑ってる。
目を合わせて僕も笑うと、更に下流側へ。
魚はいよいよバテてきた。
流れに乗られるとどうしようもないから、岸際でファイトしたいのだけど、根ズレが怖い。
なるべく近くでロッドを立てた状態で誘導したい。
すでに100mは降りただろうか。
途中、フェンスみたいなもんが刺さっていて一瞬糸が触れる。
80あるかないかだけど、こんなサイズにヒヤヒヤもんだ。
この秋の釣りを思うと僕は少し不安になった。
そしてようやくシャローで横たわるスズキにハンドランディング。
おっしゃ!

頭から丸飲み。 60ポンドリーダーでよかった。

文句なしでしょ。サイズは意外にも75センチ。
すっかりへとへとになったんで、最初の1本以来、さりげなく沈黙を続けているふ~じをからかいに行く。
どうもリズムを崩してさっぱりらしい。魚はいるんだぞ、と。
この気配。わからんか?
横で一緒に並んでやっていると、また水面が爆発。

60センチぐらい。
川もいよいよ下げ止まりだけど、気配はまだ続く。
上げッパナまでやってみるか、どうかなんて話をしていたら、金さんに豪快にヒット。
さすがにグリップエンドが短すぎて手首が痛いぜ、なんて言いながら78センチをランディング。

ルアーはMAPS。
今年はこんな感じで秋シーズン始まった。
この秋はどんなドラマが待っているのか。
いい予感もする。
だけど、悪い予感もする。
得意のジャーキングを封じられ、ただ巻き主体で攻めざるを得ない僕だけど、
願わくばメーターオーバーをこの手に抱えてみたい。
そう思うと昨日の夜は寝付きが悪かった。
使用タックル |
ロッド |
アピア 風神ゼータ 83 |
リール |
シマノ ステラ4000 DH |
ライン |
東レ シーバスPE 1号 |
プラグ |
ミラクルワークス ドカポップ12cm・阿修羅
邪道 ヨレヨレ~
メガバス X-80SW・X-110SW |
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