Area10 - Stage3 〜 神々の残像 〜
2004年8月30日 河川筋シーバス
人は誰も、時に残像を追う。
命を激しく燃やしあったあの日の恋を、いつまでも心にくすぶらせているように。
そのいくつもの残像が魂の中で成就することなく、心のひだの隅っこに渦巻いている。
その一つの河川筋。
写真は春に撮った時のね。
水門が閉まるか閉まらないかという夏の満潮。
おまけに台風から引っ張り上げられる南の強風。
水位は否応にもなく高い。
そこからの下げ。19時過ぎにポイント着。
遅い始まりを予想していたが、思ったよりも早く下げ始めている。
少し足早に橋に入る。対岸に目をこらす。
ベイトの気配有り。これは良さげだ。
そうそう、今日からダイワのセルテートにしてみた。2500Rカスタム。
巻き上げをよく見ると上下のエッジだけ密巻きでスプール中央は今までのように巻き上げている。
これでバックラッシュがかなり減る気もするが、どうだろうか。
まずは、X-80SWをセットして、キャストする。
南の暴風が邪魔をする。
定位置より、若干ダウン側からアップクロス気味にキャストする。
こうすれば多少は追い風気味にポイントにプラグを送り込める。
数投するが反応がない。
手前のブレイク上で水面が割れた。これはセイゴだろう。
だけど、パターンが形成されつつあることが確認できる。
反応がないので、ヨルクルに変えてキャストする。
一投目、着水してラインが張る前にもう喰っていた。30センチほどのセイゴ。
その後はヨルクルも反応がなくなる。
ヨレヨレに変えて川幅めいっぱいを大きく流しながら時合を待つ。
岸際にはベイトがいっぱいいる。体長12cmほどのイナっ子だ。
川に入ってきたシーバスの目に彼らが残像として残っているであろう。
川と言うより運河と言った方がいいこの一帯において、この10センチを超える魚が
光の下にたくさん集まっている。
全く反応がないので、投げないで岸際に腰を下ろして待っていた。
考えていたのは、今後の身の振り方。
メガバスの名前を背負って、アピアのロッドを振り続ける自分。
もちろん、メガバスの了解を取った上で、アピアとこの3年間やってきた。
しかし、皆さんご存じの通り、いよいよメガバスがSWロッドを出してくる。
これからは今までと同じようにはいかない。
筋の通らないことだけはするまい、と。
その宙をさまよっていた視線というかぼんやりとあった視野の中に痛烈なライズが。
思い出したように立ち上がる。
光の線、ボトムの線が交差するその数十センチの一点。
大河川ならクロスインパクトの出番だろうが、こういう小さい川だと繊細さに勝るネオンナイトが文句なしにいい。
X-80SWをサイドキャストでその一点に撃ち込む。
まだ新しいセルテートのスプールから絹のように音もなくシーバスPEがするすると掃き出されていく。
初速が落ちないから風に負けない。
水面上、1mを滑るようにハチマルが飛んで、着水。
その一点の上流側、十数センチ。
ハチマルを動かさないように、ラインスラッグだけを取る。
何もしない。
そのまま流し込む。
グン!
上流側に腰をひねってアワセを入れる。
首を振るシーバスの感触。そのままテンションを維持するために、上流側に数mゆっくりと歩きながら、ロッドにテンションをかけていく。ネオンナイトが満月のごとく曲がる。こうなったらそうはバレない。シーバスは一度エラ洗いしたのみで、後はいいように誘導されて足下へ。
長さはないが、でっぷりと太ったフッコ。
珍しく持ってきたタモ網ですくってみようと試みるが、なんとタモ網を水の中に落とす。
流れに身を任せながら沈みゆくタモ網と水面で暴れる魚。
選んだのは魚(笑)
この後の展開を考えるとタモ網を選ぶべきだった・・・。
リリースして、タモ網の回収を試みるが、ダメ。
どこに沈んだのかもわからない。
磯釣りやっていた頃でも落としたことなんかないのに・・。
気を取り直してキャストするが、反応がないので、また座り込む。
10分ほどしただろうか。
座っている上流の岸際でドバッと水面が割れてイナっ子が飛び散る。
水面で光るネオンの反射が粉々に砕け散って、まるで黒い花火みたいだ。
暇なのでキャストするがたいていは出ないものだ。
攻めつつも、その交差する一点だけは見ていた。
すぐさまその一点の水面に違和感。
岸際を攻めていたルアーを回収して、サイドキャストで超低弾道で送り込む。
一投目はミスキャスト。キャストした瞬間にミスと判断して、スプールを押さえて止める。
2投目、今度はやや下流側に着水する。
サミングしていたラインが張った瞬間に、ネオンナイトのティップ分曲がる感じの軽いジャークを一発。
次にラインテンションを張った瞬間にすでに喰っていた。
スイープ気味にアワセをたたき込む。
こらえていたシーバスが水面に出る気配、でかいぞ。
ゴッッバァ!
やべっ70ありそう。
トルク全開で橋の下を駆け抜けようとするシーバスに指でドラグにブレーキをかけながら応戦。
スタイル読んでもらえばわかるだろうけど、僕のドラグはかなり緩い。
基本的に指の腹でテンションを調整している。
3分ほどかけてシーバスをゆっくりと寄せてくる。
水面で豪快に水しぶきを上げながらシーバスも何とか川の下流を向いて流れに乗ろうとする。
流れと同じスピードでドラグを出しながら、シーバスのエラに水を通させない。
30秒で苦しそうに水面に出た瞬間に一気に寄せる。
そこで困る。
タモ網がない。
仕方ないので、200mほど離れたところにあるハンドランディングできそうな場所まで引っ張っていくことに。
思い切ってぶち抜いてもいいのだが、リーダーが短くてつかめないし、ここは慎重に行くことにする。
見た感じどう見ても70センチ中盤だし。
そして50m歩いた時点でフックが外れる。
まあ仕方がない。
今日はPE1号だし、無理はできない。
リーダーが短めだったのがいけないので、結びなおして1.2mほどにした。
これならぶち抜きもできる。
また待つこと20分。
本当は去年この釣りをさんざんやりたかった。
そのためにクロスインパクトを作ったはずだったのだ。
交差する衝撃
本当の意味を伝えられずに、だけど、このロッドは驚異的な売り上げを記録した。
このロッドを手にした多くの人が絶賛してくれた。あれがいいこれがいい、色々と笑顔で話してくれた。
だけど、僕は複雑だった。本当は違うのだ。そう言いたかった。
僕の名前が着いたロッドやタックルは、ヘビカバスタイルを一身に背負っているはずなのである。
それはルアーフィッシングにおける究極。
一撃必殺の世界。
いわゆる、神の一投。
それだけを目指してきた自分がいるから生まれたロッドなのだ。
数年前に見えた気がする神々の領域。
あの時に見た残像を今も自分は追っている。
まるで恋の悩みにふける少年のように、川面のたった一点だけを見ながら座っていた僕は、
何もかもわかっていたかのように立ち上がり、全て知っていたかのようにキャストした。
台風の名残風に多少吹き流されながらも、計算されたような曲線を描いて文句なしの一点にハチマルは滑り降りる。
サミングで張っていたラインが風でたるむ間もなく、緊張感ある張りがラインに衝撃として伝わる。
また70くらいだ。
近い。
対岸の河川敷に犬の散歩をしているおじさんがいるだけで、東京とは思えないほど人気のない世界。
あのおじさんの首根っこをつかまえて、小一時間でもいいので、この世界についていかに素晴らしいかを話したいと思った。
ゆっくりとファイトして弱らせてから、足下でリーダーをつかんで持ち上げたところでまた外れる。
これでいい。これでいいのだ。
体中にアドレナリンが満ちあふれる。
かつて何度か体験したあの感覚がまた甦る。
立ったまま、また待ち続ける。
岸際でざわつくイナっ子を食べようとするセイゴをからかいながら待つ。
流れがゆっくりになってきた。
今日は終わりかな?
帰り際に一つ下の橋をチェック。
流れの形が好きではないが、魚はいた。
帰りに港湾部の常夜灯をチェック。
ヨルクルで2本かけて終わり。
見ていた残像はまた後ろ姿となって現れるのだろうか。
そこにいたる道程は闇の中へと続いているようにしか見えない。
それでも進んでみようと思う。
たとえ先駆けたという事実しか残らなかったとしても。
使用タックル |
ロッド |
アピア 風神ゼータ83Lネオンナイト |
リール |
ダイワ セルテート2500Rカスタム |
ライン |
東レ シーバスPE 1号 |
プラグ |
邪道 ヨルクル
メガバス X-80SW |
ゴミ |
空き缶 |
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