村岡昌憲の釣行記。東京湾のシーバスからその他節操無く色々と。

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Area11 - Stage1 〜 拒絶への挑戦 〜

2003年11月22日 ヒラスズキ 長崎県

 

 

 

 

ばってん。そげな簡単なもんではなかと!

 

 

こんな話をしていたのが今年の初めの頃、長崎市内の飲み屋だった。

 

 

ヒラスズキ。時に神の化身とすら評される力強さと美しさをを身に湛える魚。

ところが僕はまるでこの魚に興味がなかった。

スズキ釣りを始めて15年間、マルスズキ、いわゆるシーバス一本だったのである。

いや、興味がなかったと言えば嘘になる。決して無かった訳ではない。

あの釣りの、あの魚が、その事に関する雑誌の記事や番組を読むたびに感じる畏怖、恐怖。

それが僕がこの釣りに挑むことを遠ざけていた。

 

 

 

 

二十歳を過ぎた頃、今の嫁さんになった人に言われた言葉が今でも忘れられない。

「私にはわかるの。あなたは海に行くと海に心を奪われる。やがて海と死の区別がつかなくなるわ。」

 

元々熱くなると周りが見えなくなる性分だ。それは自分でもわかっていた。

その欠点を知っていて時化の磯に立つのは自殺行為であろう。

そういうこともあって、今まで一度も荒れた磯に立ってルアーをキャストしたことがなかったのである。

 

 

ところが、今年の初め、長崎に仕事で滞在している僕の元へ、3人が遊びに来てくれた。

初対面である。僕のサイトとリンクしている「チームトリトン」の面々であった。

当然、大の釣り好きが4人集まるのである。釣りの話で飲み会は大いに盛り上がった。

彼らのヒラスズキの話はとても面白く、そしてその道が奥深いものであることを知った。

僕は彼らの目を見ているうちにヒラスズキに挑戦してみたくてたまらなくなってきた。

彼らが言うに、房総や伊豆に比べたら、ヒラスズキを手にする事はとても簡単なことらしい。

ばってん・・・と冒頭の言葉を彼らは続けた。

 

僕は鳥肌が立った。

子供の頃から海に慣れ親しんでいるから、まともに向き合ったことがなくてもわかるのである。

大荒れの磯に立ったことはない。だけど、堤防、サーフ、川、テトラ。

そういった場所でも死に神は容赦なく襲ってくる。

何度となく死に神と握手をした。

だからわかるのである。

 

荒れ狂う磯の恐ろしさは、神々の怒りの咆哮にも似た恐怖そのものだということを。

 

11月22日。冬型の季節配置となったこの日、長崎の波の予報は3m。

風は体で感じる限り、13〜15m。大荒れである。

僕は彼らの案内でここに立った。

11.6ftの慣れないロッドを振り回しながら果敢にサラシに挑む。

素人ながら絶対に魚がいそうだと感じるサラシがあちらこちらにたくさんある。

ところが近づけない。怖いのである。

風がうなり、波が牙を剥いて襲いかかってくる。

 

だけど、基本的な技術はマルスズキと変わらない。

魚の喰う場所を予想し、そこでバイトを出すためのリトリーブコースを考え、そこを狙ってキャストしてルアーを引いてくる。

しかし、吹き荒れる風が、荒れ狂う波が牙をむき出しにして邪魔をする。

帽子も一瞬の油断ではるか遠くまで飛んでいった。

ラインスラッグやルアーの軌道変化が並ではない。それすらも予測してキャストしていく。

そこの制御をハイレベルで行わないといけない。

この辺りは東京湾奥でも同じ条件なら一緒である。

 

 

しかし、最初はなかなかルアーがどうなっているのか、サラシの下や流れなどがどうなっているのかがいまいちつかめなかった

が、途中、比較的イメージのしやすいサラシの中で、ゴン!と明確なバイトを感じてから地に足が付きだした。

 

周りが見え始めたのである。

ふと周りを見渡す。

人間がそこにいることすら拒絶するような大自然の唸り。

そこに生きる自分、卑小で健気。

海に心を奪われる。

 

感覚が研ぎ澄まされ、波の中で泳ぐルアーの感覚がビンビンと伝わり出す。

まるで自分が荒れ狂う磯の中を泳ぐような感覚。

 

釣り始めて2時間は経っていただろうか。

移動していくうちに磯の角度が変わった。

半径10mほどの小さなワンド状の地形、その中は気泡で青みがかった白に染まっている。

さっきのバイトが出たところと同じような形。

少し背の高い岩があって、サラシのギリギリまで前に出られた。

とはいえ危険。

サラナ125をキャストする。

 

巻くと言うより、漂わせる。デッドスロー。波にラインが押された分だけ巻き取る。

視線は沖の波を見ていた。

 

ゴン!

 

 

喰った!

 

水中に目をやると60センチぐらいのヒラスズキがエラ洗いをしている。

11.6ftのバッカニアが重みを乗せ始めてきしみながら曲がり出す。

その瞬間に外れる。

 

んがっ!

 

 

天を仰ぐ。

まだいる。

 

再度サラシに目をこらす。

も一回出ろ!

同じようなところに着水。

また漂わせる。

出ない。

沖側に殺気!

波を確認する。大丈夫。

 

その瞬間、足下でバイト。

いつものクセでティップを瞬間的に下ろす。

そこから魚が下にルアーを引きずり込んでいく。

その竿なりにアワせる。

異変に気付いた魚がとてつもないトルクで下に突っ込む。

追いアワせを軽めに入れて、突っ込みに耐える。

風がロッドを叩く震動と凄まじい風の風切り音でドラグがどうなっているのかよくわからない。

ふと海中に消しこむラインを見ると、足下のサラシの角に触れている。

やばい!

 

両手を目一杯突き出して、ラインを磯から離す。

離れない。

右手でグリップエンドを持ち直して、片手で耐える。

切れんな!

魚が突っ込むのをあきらめた。

上昇する気配、ロッドを持ち替え、右側に倒してエラ洗いに備える。

真っ白なサラシの中からどでかい口が突き抜けて空中に大きく飛び出した。

その瞬間の力を利用してオーバーハングしている磯の上側に魚を引きずり出す。

ランディングできそうな場所は右側。波が打ち寄せる小さなタイドプールになっている。

そこに入れる。

突っ込みを2度かわしたところで、一際大きな波。

波に乗せて一気にタイドプールへ。

引き波に耐えて水が無くなったところで磯際に飛び降りた。

リーダーをつかみ、暴れる魚の口に容赦なく指を突っ込む。

 

獲った!

 

 

よっしゃ!

 

その時、

危ない、動くな!

 

上でトリトンのメンバーが叫んだ。

ふと背後に死に神の殺気。

今まで自分が立っていた一段高い岩に天に突き上げるような波。

僕に豪快なしぶきとなって落ちてくる。

びしょ濡れになった。

 

まだ来とるよ!

 

3発食らいながら、波の間隔を数え、波間に磯を駆け上がる。

 


人生初の磯のヒラスズキ。83センチ。 6kg

 

ヒラスズキは昼の磯で釣ってこそ価値がある。

この言葉も今年の最初に長崎で聞いた言葉だった。

それが十分にわかる一本であった。

終わってみればこの1本で終わり。

その後は海が凪いでしまい、メンバーも首を横に振るばかりとなった。

 

 

初挑戦でいきなりのランカー。

しかし、魚を掛けた瞬間に心を海に奪われた。

磯際で死に神と握手をしてしまった。

 

 

でも、これは生き抜くことと同義であろう。

生き抜くとは冒険であるはずである。アドベンチャーであるはずである。

ただ働いて寝てビール飲んで食べてテレビ見てという生きてるのとは決定的に違うはずなのだ。

時に危険な目に遭うし、命を落とすこともあるかもしれない。

だからこそ楽しいのだ。

 

 

一人で行かなきゃ何とかなるだろう。

次はいつ行こうかな。

 

 

思えば4年前。

長崎のシーバスにマーゲイで挑んだ一人の男がいた。

彼との出会いがなかったら、この釣りも、このチームのメンバーとの出会いもなかっただろう。

そして長崎の仕事が無かったら。

 

その事に感謝の気持ちが絶えないのである。

まさみね氏と

 

 

使用タックル
ロッド アピア 風神116Mバッカニア
リール シマノ ステラ4000SW
ライン 東レ レイジングウォーターナイロン12lb
プラグ スミス サラナ125F
ダーウィン カンニバル129
アロウズ レア
   

 




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